国際シンポジウム
2019年5月13日開催
社会的に最も脆弱な人々の生活を改善するために休眠資産をいかに活用すべきか、そのベストプラクティスを共有するということで、世界各地の専門家の方々が集う今回の重要な会合に参加の要請をいただき、大変嬉しく思っております。本日ご参加の皆様方がそれぞれ相互の学びを通じ、休眠資産を活用する制度を立ち上げることに関わる課題と、制度がもたらす素晴らしい機会について、理解を深められることを祈念しております。私としては、10年近くにわたって運用されてきた我が国英国の休眠資産を活用する制度を誇らしく思うと同時に、世界の多くの国々で、社会のために休眠資産を活用することのメリットがいかに大きいかが認識されつつあるということを知り、非常に意を強くしているところです。
英国の制度は当初、少数の金融機関とBuilding Societyが参加することから始まりましたが、現在では27の組織が活発にこの自主的かつ任意の制度に参加しています。英国でこの制度が成功したのは、一部には、顧客がいつでも期限なく、自分の資金の全額を取り戻すことができるという点に負うものです。自分が使用していない口座を所有していると気付くのにどれぐらいの期間がかかろうが、あるいは、自分が正当な遺産相続者だということに気付くのにどれほどの期間が過ぎようが、資産を取り戻す請求を行うことができます。
もう一つの原則としては、長らく取引がない顧客を追跡する頑健な追跡システムを企業が設け、あらゆる合理的な方法で顧客と連絡を取ろうとしても連絡が付かなかった場合のみ、その資金を本制度に移管することができるようにしている点が挙げられます。当初の試算では、4億ポンド分ほどの休眠口座があるとされてきましたが、既に12億ポンド以上の資金が本制度に移管されています。そのうち、6億6千万ポンド以上が様々な社会課題の解決を支援するために投入され、英国全土の各地域社会や国民に対して、永続的で良好な成果を上げています。
イングランド地方だけでも、世界初の社会投資ホールセール銀行であるBig Society Capitalが休眠口座からの資金を何億ポンドと投資しており、こうした投資により2,000人以上の社会的弱者に住居が提供され、2万6千人以上の恵まれない若者たちに就業、あるいは訓練の機会が与えられてきました。これまでの本制度の成果を受けて、英国政府は昨年、更に休眠口座からの1億4千5百万ポンドを新たに設立される二つの独立した団体に分配すると発表しました。そのうちの一つであるFair4AllFinanceは、分配される5,500万ポンドを活用して、最も脆弱な人々が公正で値ごろ感のある適切な金融商品やサービスにアクセスできるよう図っています。また、もう一つの団体であるYouth Futures Foundationは、9,000万ポンドを使って、これまで労働市場に全く縁がなかった恵まれない若者たちを支援していく計画です。こうした各団体組織は政府機関ではありません。しかし、それ故にこのように長らく存在する社会課題に戦略的なアプローチを取ることができています。それぞれの組織団体にとってはその独立性が成功にとって極めて重要ですが、それはすなわち資金の使途についてのコントロールが必ずしも十分効かないことを意味します。これに対応するため、英国では先進的なガバナンスモデルを導入して、こうした民間組織がこの先も公益のための活動を行うよう担保する仕組みとなっています。
現行制度の成功を受けて、英国政府は、より広範な資産を含めるために、制度を拡大することができるか検討しています。検討が開始されたのは、2016年の休眠資産委員会の設置が皮切りであり、2017年には同委員会が大臣に報告書を提出しています。
委員会の勧告を受け、2018年には、銀行、保険、年金、資産運用、ウェルスマネジメント、証券等の各業界トップの4つの団体が、それぞれの業種での制度拡大計画を策定するよう政府から要請されました。そして、各業界トップの組織がこの4月に本制度拡大策の青写真を政府に提出しています。ご存知の通り、制度拡大といっても一朝一夕には達成できません。とても複雑であり、業種業界を超えた強力な連携のパートナーシップに依存する現行制度のように、業界のコミットメント、責任あるReclaim Fund、国民の支持が必要です。政府にも支援や環境整備の役割があります。また、デリバリー・パートナーとして、National Lottery Community Fundの継続的な協力にも感謝しています。制度拡大がきっかけとなり、業界、政府、市民社会間の連携も強化されることに繋がるのではないかと見ています。
現行制度の経験から、制度運用には時間も努力も必要だということを学びましたが、こうした努力が大きな成果を生み、支援を必要としている人々に支援を提供するというレガシーが作られるのです。英国としても、この重要で胸躍るアジェンダ、特に休眠資産を社会のためにいかに活用するかという課題について、支援と専門知識を提供し続けることができればと願っております。
本イベントの成果について、そして更なる国際協力のこの先のあり方について皆様のお話が伺えるのを楽しみにしております。ご清聴ありがとうございました。